映画評:「血を分けた関係」についての表現(園子音さんの『紀子の食卓』と『地獄でなぜ悪い』)

 えーと、年末進行のため、書類作成と正月明け原稿に追加うデータ入力でてんてこ舞いのはず…なのに、『地獄でなぜ悪い』以降、園さんの作品が気になって、気になって、本当に気になったので、いまさら『紀子の食卓』見直して見ました。なんでかというと、園さんの作品の中でやはり何か避けて通れない作品のような気がしているからです(といってもあくまで一視聴市民の「陳腐な感想」なんですけれど)。

 

 

 皆さんは、『自殺サークル』って作品を園さんが確か2002年発表されたのはご存知ですかね。女子高生54名が謎の自殺を行い、しかもその背景を探るとインターネット掲示板でのあるつながりが浮かび上がってくるという、そういう作品で、女子高生、まあ今風に「JK」とでもしますか…のふわふわとした現代におけるその存在と不安みたいなもの、大人のふがいなさやネットのつながりの影の部分などなどなどもろもろ救いのなさを表現していた秀作でもあったわけですが、その『自殺サークル』のある種の続編的な作品でもあるし、前作を見なくても充分物語を追っ掛けることができる、2時間20分の作品です。確か2006年に発表されたはずです。

 

 

 主演は多少あれなんですが、17歳の家出少女、紀子(でもありネット上のハンドルネームでは「みつこ」)を演じるのは、吹石一恵さん(ちょっと実年齢的には年代設定がぎこちないんですがそれがまたそれでいい演出になってると私は思います)。家族、国際情勢、学校生活様々な点で違和感を感じ居場所のない関東(もしくは東海?)の地方に住む紀子は、ある日、「廃墟ドットコム」と呼ばれるどうも同世代の人々が書き込んでいるネット掲示板で「みつこ」を名乗りそこでの交流と、そこで出会った、決壊ダムさん、廃人5号、深夜さん、そしてリーダー格の上野駅54さん、というハンドルネームの、どうも東京在住らしい人々と知り合いになる。

 

 

 そしてついに家出をした紀子は上野54さんと上野駅で会うことに…そこから紀子の新しい生活が「スタート」するのですが…なにがしかのカルト的な集団(しかもそれがどうも「堅気」の人によって構成されてる)、レンタル家族、動物園の爬虫類館に入れられた女子高生、思春期の人と浮遊感、何とも言えない´00年代初めの空気感のメタファーが描かれるのですが、やはりその中でも目を惹くのは血糊と肉塊でしょうか…。

 

 

 どぎつい表現もあるし、おそらく、見ていてホッとするとか、リラックスできるとか、そういった映像表現は園監督は目指していないのではないかなと。かなりグロテスクに見える演出もありますし、どちらかというと挑発的に何かひっかかりを残す、そういった表現の映画です。で、見ていて思ったのですが、「血糊と肉塊」って殆ど私が見た園子音さんの映画(まあだいたいDVDになったやつなんでそれ以外のものや若い時の作品はわかりませんが)にずーっとえがかれている。しかもそれが何か人間関係のメタファーとして描かれているような気がします。

 

 「血を分けた」なんていうように肉親を表現しますが、浮遊感や不安感、あるいは孤立、孤独、そういった者同士が肉塊と血糊で一体化する、何か根源的な身体的共同性みたいなものが作品の根底にあるような気がしてなりません。

 

 だから、血糊と肉塊の気持ち悪さもあるんでしょうが、私は、むしろれによって表現されている身体的共同性と、都会で孤立している人々や家族がバラバラになった人々、なんだかわからないけど多感な時期に大人から突然「引かれる」存在になる浮遊した若者や、情けなくもそういった若者に驚愕して踏み込んでこない大人像、こういった「現代の浮遊する人間関係」の心地良さとの、この二つの間のアンバランスさ、それをわかりつつやり過ごそうとする人間の鈍感さ、そういった根底的な人間の暗い処のグロテスクさを描いているから、いい意味で「気持ち悪いなー」っていう感覚を、私は感じるんでしょうね。いやいい意味でです。映像表現作品として形にして見せてくれている、そういった部分がこの作品を「気持ち悪く」も「何か本質をついている」、そういう風に思わせるんでしょうね。

 

 

 エアとリアルの交錯と危うさ、そしてそのツールとしてのネット、命や共同体、身体、性的成熟の不安と承認などなどこういった視点には惹かれるわけです。ただその表現手法はどぎつい。だって、「血を分ける」っていっても実際に血糊や肉塊となって本当にぐちゃぐちゃになるんですもの…。

 

 

 でここまで書いてみて、やはり『地獄でなぜ悪い』との表現手法での共通点が「血糊と肉塊の共同性」なんじゃないかなと思った次第です。あとどうでもいいかもですが、どちらのヒロインも名前は「みつこ」(「みつこ」と「ミツコ」)ですもんねー。

ちなみに前書いた『地獄でなぜ悪い』の映画評はこちら…

 

http://blog.livedoor.jp/apoly1998/archives/51976840.html

 

 

あ、そろそろ仕事復帰しなきゃ…それにしても映画評ばっかりになっちゃうなぁ…実際は映画館で見れてないけど。

 

では皆様、よい年の瀬をお過ごしください…。