密林通信:お題・ほめる目的で10冊の書評をかけ

ご無沙汰しております。

 

すっかり年末進行ですが、いががおすごしでしょうか。

今年は何とか年賀状まにあいました。別の方法に人類のステージが進化することを願ってはいるんですが、こればっかりは年賀状のやり取りだけでしかつながれない方々もいるのでやめれないんですよね。

 

 

さて、別のSNSで、10冊、しかもその本を「誉める」という目的で、書評を書くというゲームといいましょうかそういった高級なお遊びがございまして、そちらに提出したものですが、もったいないので、こちらでも。今までこちらで書いたものも少し入ってますが、お目汚しです。

 

あ、メリークリスマース。

 

では、課題は以下の通り。

誉める目的の書籍レビューを以下のフォーマットで十冊書く。(1.タイトル、著者名、出版社 2.内容 3.面白かったポイント 4.満足感を五段階評価)・・・

 

 

1冊目

1.『教員採用のカラクリ 「高人気」職のドタバタ受験事情 (中公新書ラクレ) 』、石渡 嶺司 (著), 新井 立夫 (著)、中央公論

2.大学ジャーナリスト石渡嶺司氏と教職課程の専門家が、何かと話題に上る学校教員の採用から内実、学校内の職場人間関係、保護者とのやり取りなどを取材し、現代の教育現場の問題点にアプローチする。

3.採用の裏舞台として、教育委員会の内実や教員採用試験問題の動向なども取材しているところは興味深い。また職場内の教員間の人間関係も取材しており、学校教員のハードさと、日本における子どもの「教育」が学校だけでいかに限界があるかを明確にしてくれる。

4.4(5段階評価)

※2013年11月刊

 

2冊目

1.『ホントの話―誰も語らなかった現代社会学 全十八講 』、呉智英 著、小学館

2.おなじみの「封建主義者」の論客が、人権問題、日本における外国人参政権自虐史観、等々のトピックの根底にある論点を探り、知的な考察により政治的な立場によって捻じ曲げられがちなこれらのトピックの論法を知的に語りつくしていく。

3.筆者おなじみの論法によって、俗流な「右派」も「左派」も、論理的な展開ではなく、情緒的な語り口を暴露されていく。筆者の他の著作を読んだ方は、その論の進め方におけるなじみ深い所(国家や人権についての考察)と、筆者の新しい見解(外国人参政権や日本の戦争についての歴史観について)とを読めるので、初めて呉氏の著作を読む方にも、また他の著作をすでに読んだ方にもおすすめ。

4.3.5(5段階評価)

※2001年11月刊(2003年4月には文庫本が刊)

 

3冊目

1.『放送禁止歌 (知恵の森文庫) 』、森 達也 (著)、知恵の森社

2.90年代末の民放での同名のドキュメント番組の取材・制作過程をふまえて書籍化したもの。でなぎらけんいち『悲惨な戦い』、岡林信康『手紙』、赤い鳥『竹田の子守唄』、など通称「放送禁止歌」として民放連で「放送に適さない」とされるこれらの歌は、なぜ放送されなくなったのか?その「放送しない」判断の根拠は?規制したのは誰なのか?。消えた放送禁止歌の謎と、日本のテレビ放送における自主規制の現実に迫ったルポルタージュ。

3.この本と同名のドキュメンタリー番組の取材で、民放連で「要注意歌」として自主規制してきたテレビ放送界の基準が、実は取材当時とっくに期限を切れており判断基準も失効しているにもかかわらず、放送に適さないという基準だけがそのまま残され続けていたり、同和問題に抵触するとされる作品について、同和解放団体からのクレームが実際にあったのか直接著者がインタビューしたところその事実はないということなども明らかにされる。また書籍のみの取材であるが、『竹田の子守唄』の歌がどのような背景を持って生まれたのか、その足跡をたどった小論も読みごたえがある。

4.5(5段階評価)

※2003年6月刊(文庫本)

 

4冊目

1.『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―――正義という共同幻想がもたらす本当の危機 』、森 達也 (著)、 ダイヤモンド社

2.本書は著者が2007年から6年にわたって連載されてきた『リアル共同幻想論』をまとめたもの。話題も時事的なもので、死刑制度について、動物の殺処分、尖閣諸島はじめとする「問題」、日本の食文化とイルカの保護、タイガーマスク騒動など、多岐にわたる。

3.元オウム真理教信者をルポルタージュした「A」以来、著者の姿勢として一貫しているのは、「知っているつもりで話している、なにかの問題のことにどこまで近づいているのか」ということに自覚的であれ、という「問題へのせまり方」についてのこだわりがあると思われるが、本作でも様々なトピックでこの姿勢が感じられる。特に、マスメディアの限界や単純な二項対立的な理解を批判しつつ、一方のネットメディアでの「摩擦のない共感や憎悪」からくる言葉の礫についての静かな批判は、対象に肉薄してきたからこその言葉の力を感じる。

4.4(5段階評価)

※2013年8月刊

 

5冊目

1.『NHK中学生・高校生の生活と意識調査2012―失われた20年が生んだ“幸せ"な十代』、NHK放送文化研究所 (編集)、NHK出版

2.10年おきに行われている全国調査(意識調査)の結果を、1980年との調査結果と比較して、現代の中高生の特徴を「幸福感」を中心に浮かび上がらせる。また識者インタビューとして、古市憲寿、菊池桃子、尾木直樹などが、現代の中高生像を語る。

3.まず興味深かったのは、保護者への意識調査の結果で、1980年代の結果では、私生活(テレビチャンネルの優先権)から勉強においてかなり幅広く中高生との間で「意識の行き違い」を感ずるものが多かったのに比べ、現代(2012年現在)では学校教育の場面以外では、「行き違い」を感じると回答するものが見当たらない。これはそれだけ意思疎通の摩擦の場面が減ったとすべきか、はたまた親子関係が潤滑なのか。またいじめについての調査では、我が子が、いじめをされている、している両方において把握している保護者は数パーセントとかなり低いことも興味深かった。もちろん一つの素材ではあるが、現代の中高生像の生活を考える際には一つの手がかりになりそう。

4.3(5段階評価)

※2013年6月刊

 

6冊目

1.『この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパンセ)』、西原理恵子 著、理論社

2.著者の幼少期から青年期までの体験記から、お金に関して翻弄され転落していく著者の周りの生き方と、ほんの少しのチャンスの中で「自分のやりたいこと」に気付きつつ、しがみついて行く「闘い方」がある点を、こどもを諭すかの如くやさしく解説する。

3.おそらくは、「よりみちパンセ」という、中高年を読者に設定した本という制約がありながら、著者の思春期に起こった「お金」をめぐる悲劇が赤裸々に語られ、著者の「悲劇」の引き受け方が、読者の胸をうつ。おそらく思春期の読者であればなおのことかもしれない。表現力の幅と調節力もさることながら、おこった悲劇を著述し、その後に適宜言いかえられる教訓のつかみ出し方にも筆者の筆力を感じた(でもあざといんですよね…でもこのいきだと流石というしかない)。

4.4(5段階評価)

※2008年12月刊

 

7冊目

1.『環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書』、松井 章 著、岩波書店

2.貝塚など、古代の人々が暮らす様を、生活の場の遺跡の分析から推理し、トイレなど人々の生活の様から人類の歩みをたどっていく。また動物と人々の関わりを古代まで遡って分析していく。

3.本書では様々な古代の生活環境や動物とのかかわりの痕跡から、古代の人々の生活を後付けていく。その中で、犬を飼っている人間にとっても興味深いのは、縄文時代の犬と人とのかかわりと、弥生時代のかかわりでは、まったく異なったものであり、発掘された遺跡の分析から犬の体格さへも異なっていたこと。更には平安時代、絵巻に描かれた都の犬達がおそらく疫病の被害を受けた人々の骸(むくろ)をあさる様から、後に武士たちからは不浄のものとされた存在であったことなど、読み解いていく。動物考古学なる領域を垣間見ることのできる入門書。

4.4(5段階評価)

※2005年1月刊

 

8冊目

1.『偏屈老人の銀幕茫々』、石堂淑朗 著、筑摩書房

2.映画監督でもあり、脚本家でもある著者が、思春期、東大時代、映画会社時代に出会った今村昌平浦山桐郎実相寺昭雄種村季弘小川徹など、そうそうたる映画人、文化人の人々との交流や筆者の生活を描く。私的昭和戦後史の資料としても意義深い一冊。

3.ほぼ同年代の山田洋次監督や東大在学中の貧乏生活、また東大とはいえ文学を専攻する学生の就職難など、体験談ならではの生活感にあふれた記載と、筆者独特のユーモアが味わい深い。中でも山田洋次氏をはじめとする松竹のなど当時の若手監督に一時期落語文化が流行した際に、「あいつら○○に落語がわかってたまるか」等のぎょっとするが悪気のない「毒舌」は一種爽快感すら感じられる。

4.4(5段階評価)

※2008年3月刊

 

9冊目

1.『洋裁の時代―日本人の衣服革命(百の知恵双書)』、小泉和子 著、OM出版

2.現代では信じがたいが、日本人の服装がほぼ完全に洋服に変わったのは昭和二〇年以降のことということが本書ではよくわかる。敗戦直後の困難な暮らしを生き抜くなかに、和服から洋服へ、和裁から洋裁へという静かな歴史的な歩みを跡付ける。

3.この書を読んで、改めて、和裁から洋裁という流れがかつて戦後に洋裁教室ブームを巻き起こし、日本人女性にとっての「衣服革命」といってもいいような時代があったことがわかる。この時代、洋服が着たくても着れなかった人々は、まさに洋裁をしてでも手に入れていたのである(そして婦人雑誌のかつての付録は、トートバックなどの既製品ではなく型紙だったのである)。現在、消費文化が資本主義の発達でさらに進み、もはや爛熟した完全専業の消費者社会になってしまった現代だからこそ、かつてのファッションと生産と消費というトピックの時代における連関を、本書は具体的な資料から可視化してくれる。

4.4(5段階評価)

※2004年3月刊

 

10冊目

1.『来たるべき民主主義(幻冬舎新書)、』國分功一郎 著、幻冬舎

2.この著作では、著者もかかわることになる東京都小平市の森を貫通する都道に対して、その開発案について住民投票を求める方々の運動や、小平市当局のそれらの取り組みについての対応などが紹介されつつ、地域住民という立場からの民主主義が行政の立てた計画について現代ではどのようなところまで影響力があるのかということをふまえて、政治思想としての「民主主義の課題」という点が著者により検討されていく。

3.著者は、いわゆる体制として、議会における代表制というものの意義は認めつつも、社会運動としての民主主義の射程が、それにとどまる事に疑問を投げかけておられる。またこの本の中で、ガタリやドルゥーズが80年代以降のフランスで「制度論的」アプローチとして主張したとされる、ある種の政治主義(むしろ議会主義というべきか)に依存しない社会運動のスタイルも取り上げられていて、自分の研究にもかかわるので、その点わかりやすく説明され非常に勉強になりました。

4.4(5段階評価)

※2013年9月刊