たまに珈琲ネタなど…コーヒーの日カウントダウン2

さて、前回、2011年に某SNSに掲載した「アロマ生活」という珈琲ネタのエントリーをこちらでも公開しました。

 

自家焙煎でもなく、もちろんスペシャルティーでもなく、おしゃれなカフェでもない、そんな何の変哲もない「喫茶店」にも、もちろんですがドラマがあり、珈琲の神様が宿っています。もちろん、缶コーヒーの中にも…。

 

そんな珈琲の神様を薫りとともにいつまでも味わいたい、そんな気持ちで書き溜めたものです。

 

ではせっかくですので、前回の日記にもチラリと登場した「パイン館」についてのノートでございます。

 

さ、なんだかマンデリンが飲みたくなったので、私はこの辺でドリップの準備を。

 

 

-------以下日記----------------------------

アロマ生活(3)

投稿日:2011年11月14日 21:49

 札幌の横井珈琲店との出会いを書くと言ってみたり、札幌駅北部のある種のケルンであるカネサビルのことを書くといってみたり、いろいろと思うところはあるのですが、取り留めもなく、前回ちらっとご紹介したパイン館という喫茶店を紹介します。

 

 場所的には、私の住んでいたところからほぼ真東に数キロは移動します。ちょうど地下鉄でもいけなくて、かろうじ通っているバスもそう何便もない。自動車か何かなければあまり行くことはないような位置にありました。でも自動車を持っていた悪友に連れられたのがきっかけで、たびたびこの店に行く機会がありました。もっとも秋風がぴゅーぴゅーと肌寒いこのころでさえ、自分で自転車に乗って繰り出したりもしたのですが…。

 

 札幌に住まわれてない方にはイメージしにくいのですが、中央区から東区白石区と呼ばれる地域と、西区の一部は、実は開発の歴史が古く、そのために反って戦後の開発が遅れたところでもありまして、独特の雰囲気のある地域でした。西区の琴似という地域は赤煉瓦の倉庫などがあったりしましたし、東区の苗穂のあたりや大通東8丁目あたりなど、歴史的な建物が多いせいか通りの印象が際立ちます。そんな東区へのあこがれがあり、自転車をこいではるばる小一時間、パイン館まで行ったのかもしれません。

 

 このパイン館、なんでこんな間の抜けた名になったか知りませんが、車社会の北海道らしく駐車場が大きく、自家焙煎の店にしては結構遅くまでやっていたので、そこそこファンが多い喫茶店なのです。戸を開けるとかランカランといったかどうか記憶にはないですが、マスターは本当にベストを着用し、カウンターにはサイフォンの中のお湯が沸騰しています。入ってすぐのカウンターの横には、仕入れた炒る前のコーヒー豆がみっちりとはいった麻袋が熊か何かの動物がゴロンとなっているかのように無造作に置かれているのが印象的です。

このお店、とにかくやたらメニューが多いことと、店の中中にガラクタのような知恵の輪とかパズルとかゲームの類がごろごろとしており、失礼な言い方ですが、なんとなく小汚い感じが、落ち着くのです。

 

 私はこの店のメニューのうち、適当に選んで、「これ下さい」などと言って、片っ端から頼んでいたのですが、メニューが何十種類もあったせいで、全種類の5分の一も飲むことができず、札幌を去ることになりました。

メニューを見ないで、一番後ろから頼んでいる私ですから、なんという名前かわからないけれど、とにかく印象に残っているメニューがありました。長らくそのメニューが何かわからなかったのですが、私の記憶によると、とにかく幻想的な、特に店内に不思議な現象の起こる商品だったのです。どう不思議だったかというと、サイフォンでおとした珈琲に何かを入れ、店内が一瞬停電したかのごとく暗くなり、その刹那、ぼわっと何かの光がマスターの手許から発するというような、錬金術でも見てるかのような作り方をする、そんなコーヒーなのでした…。そんな印象的なのに、コーヒーの味はと言えば、美味しかったんだけれど、何かほろ苦さと甘い残り香のようなものを記憶するぐらいで後はほとんど何の印象も残ってないのです。あれだけ個性的な作り方をするのに…あれはなんだったろうかと疑問がわいて、これまた多すぎるメニューのうち、5分の一しか飲んでいないそのメニューをまた折り返してしらみつぶしに頼んでもそれ自体結構な品目でしたので、結局わからぬままでした…。

 

 そしてもう一つ、パイン館の特徴に、注意しないで席を立つと、頭を店の照明で殴打するというおまけがついてきました。私も毎回ぶつかるのは分かっているのですが、おそらく10回に7回は頭をぶつけたのではないかと思います。そのせいでうる覚えになったのかと思ったほど。

 

 その後、数年して札幌を訪れた時、パイン館に案内してくれた悪友は、以前乗っていたジムニーからステーションワゴンに乗り換え、またまた私などより栄達し、再会ののち、パイン館でごちそうをしてくれたのです…そしてマスターに、こんなつくり方をするコーヒーありますかと聞いたところ、悪友が「いやないでしょう」と言うや否や、寡黙なマスターにしては珍しく軽やかに「アイリッシュコーヒーですかね…」そう言ってくれたのでした。早く言っていればよかった。やはりそのコーヒーはあったのでした。カクテルの一種だったという点をのぞけばですが。

 

 下戸の私にとって、アイリッシュコーヒーはカクテルの一種といった方が早いぐらいお酒が入りますが、そのお酒が入ったことを演出するために、フランベして、仄かな明りを楽しんでもらおうとマスターが照明を落としていたのです。

 

 それを私は停電か何かだと思った次第。記憶があいまいだったのも、要は程よく酔っ払っていたのでしょう。これまたのんきな話です。とんだ錬金術のメルヘンが、実は単なるアルコールによる軽い酩酊だったなんて…。種明かしをすればこんなところなんでしょうが、喫茶店というお店の魅力とは、こういう小さいメルフェンの要素のような気がしています。

 

 パイン館の謎解きの後、悪友に車で送ってもらい一路新千歳空港へ。あとは空路で四国に戻ったわけです。

実は札幌時代、このパイン館に自転車でかよっていたのにはわけがあります。行く途中に札幌刑務所があり、パイン館の帰りには、必ずそこの販売所の木工製品を見て帰るという楽しみがあったからでした。そこには自称詐欺で服役した経験のあるという、中年の女性の売り子さんが、マシンガンのような勢いで面白い獄中話を聞かせてくれたのでした…。その話もいずれはしたいのですが、長くなりましたので、この辺で。